映画「ラスト・タンゴ・イン・パリ」は今
やっと本当の姿を現している。1972年の映画が今、完璧な状態で見れてうれしい(DVD:オリジナル無修正版)。公開当時、検閲で画面にスタンド等の焼き込みがされていた記憶がある。裸体画に布をかけるみたいで可笑しかった。
オリジナル予告編では、“ONE OF THE MOST INPORTANT FILMS IN HISTORY”とか“A LANDMARK IN MOVIE HISTORY”と 評されている。
これはフィルムに焼き付けられたアートであって、批評通り、映画史に残る作品となった。31歳でこの人間の絶望を描いたベルトルッチは早熟の天才だった。
もう一人の天才は、撮影監督のビットリオ・ストラーロ。彼がいなければ、コッポラの「地獄の黙示録」は生まれなかった。これはイタリアの芸術家たちの映画である。
マーロン・ブランド(1924生)は48歳で、前年に「ゴッド・ファーザー」に主演している。1950年代のアメリカ映画のセックス・シンボルだった二枚目が中年の絶望をこれほど奔放に自らを曝け出して演じたこと自体が映画史上の事件だったろう。Openingの1カット目はクレーンでブランドの後頭部に接近するショット。2カット目は高架の鉄道、3カット目はブランドのクロースUP。この3カットでブランドの老いと孤独をみせて物語の核心に観客を投げ込む。
僕は、この映画の話を好きとはいえない。あまりにペシミスティックだから。しかし素晴らしい色彩、ガトー・バルビエリのむせび泣くサックスのテーマ等が、美的に昇華された絵画を見るのと同じ興奮を与えてくれるので、年に一、二回見たくなる。
これは、死に向かう絶望した異邦人の物語。官能よりも死のイメージが色濃い。
ストラーロのオレンジ色の光が忘れがたい。人生における希望の残像のようだ。
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