イーストウッドの「ザ・シークレット・サービス」
VHSのパッケージには「クイント・イーストウッドのタフな魅力が光るサスペンス・アクションの傑作」とあるが、これは正確ではない。
イーストウッドは既に護衛するには歳を取りすぎていて、そしてJFKの暗殺を防げなかったという悔悟もあり、心に傷を負っている。だから、この映画は、イーストウッドが己の年齢と内面の傷と戦うドラマでもある。何度も「お前はもう歳だから・・・」と周囲から言われる。この逆境のヒーローが、如何に彼らしい戦いを繰り広げていくかが、この映画の魅力だ。
大統領暗殺を目論む元CIAの工作員マルコビッチは、珍しく気味の悪い悪役。彼は、イーストウッドの内面の反映である。絶えずイーストウッドを苛む内心の声の化身・分身が、マルコビッチの役である。イーストウッドの死への願望が結実した敵といえるかもしれない。
イーストウッドは、JFKのin the line of fireに身を置いたなら、職業的な使命は達成してたが命は落としたろう。しかしそれをしなかったという悔いが彼の人生を30年、苛んだ。すべてを失いかけた彼は使命を果たすためには死をも賭けなくてはならない、というin the line of fireに再び身を置く必要がある。生きるために。この構図は秀逸で、この映画をたんなるサスペンス・アクションから傑作へと引き上げているポイントだろう。
人は生きるためには、一度死ななくてはならない。これは老年期を生きる男の成長物語である。
彼は衰え行く男の魅力を演じることに成功した。
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