「秋津温泉」-本当に美しい女優
久しぶりに観た。池袋にある名画座で何度も観た。本当に美しい日本の女優とはこういう人のこと。 TVCMなどには出ない。だから「女優」と言う言葉は彼女のような人のためにある。
公開当時は松竹映画で大ヒットしたという。ロケ地の秋津温泉(岡山県)は賑わったそうである。(この映画が忘れ去られたのはジャーナリズムにも責がある。)ハリウッドなら「ローマの休日」のようにエヴァー・グリーンになっただろう。
女優の名は、岡田茉莉子。
この映画は彼女の出演100本記念作品。企画も彼女。100本の映画にでてこそ“女優”です。その美しさ。艶かしさを堪能できる。
昭和20年の夏から男女17年間を巡る情念のドラマ。戦中。終戦。戦後。時代の経過で愛と運命が変容する女の葛藤。
岡田指名の監督・吉田喜重と、この映画が縁で結婚へ。吉田監督の代表作のひとつでもある。
ダメ男という言葉がある。長門裕之がウマイ。男は実はみなダメ男。堕落し時代に迎合し女に甘えるーそういう姿を吉田監督は日本という国家に重ね合わせてみる。女は僕の解釈では“美しい日本の私”。美しくあればある程、戦後日本では生きにくい。
これ以上は映画をみてのお楽しみ。
林光(はやし・ひかる)の美しい音楽が妄執(オブセッション)のように奏でられる。凄い。頭に刷り込まれてしまう。メロドラマの体裁をかりながらその情念が濃密。さらさらとした水彩ではなく情念で塗り込められた油彩。しかし吉田監督は水彩を装う。そこが屈折してる。
しかし屈折していない知性などあろうか?
その屈折が映画を面白くする。
1962年の映画がひっそりとレンタル・ショップの棚にある。
本当の日本の美しさと哀しみをみるチャンスは選ばれるのを待っている。
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