CMにチャンネルをあわせた日
天才を語るのはやさしい。しかしかつての自分の神を語るのは難しい。
TVで故・杉山登志(すぎやまとし)を描くドラマをみた。伝説のCMディレクター。初期の資生堂のTVCMはほぼ彼の手になる。
杉山登志氏は37歳の若さで自ら命を絶った。そのダイイング・メッセージは数日後新聞に掲載された。その記事を読んだ時の複雑な思い。オイル・ショックの年。時代の伝説。
僕はその翌年、広告業界に入った。やはりCMをやりたかった。TVCMはその時代、輝いてた。
それから十数年後。この業界を去る時に、まとめて何本かCMに携わった。けれどその時にはもうCMに熱い想いを持てなかった。自分の夢は果たせた。これ以上自分を誤魔化せなくもなっていた。広告業界が虚業に思えた。CMはクライアントのもの。視聴者のものですらない。芸術じゃない。
TVCMが時代をつくったと思うのは美しき幻想。時代は経済を支えてきた真面目な日本企業がつくったもの。15秒、30秒に巨額の制作費を投入。しかしその費用対効果は不可侵領域。TVCMはいずれ限定的なTOOLになっていく。いまやHDレコーダーで検知されはじかれる対象となった。
故・杉山氏が最後に残したメッセージはCMのナレーション。それは彼が周到に自らの死を演出した証(あかし)。類まれな才能を自ら絶ったことが悔やまれる。CMは世界など変えやしないーそれを杉山氏は知っていたろう。そう今では思う。
空虚なものに情熱を傾けた不条理を僕はいまも愛してる。杉山登志、あなたを今もなお・・・。
TVのhpは⇒メッセージ
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コメント
トラックバックありがとうございました。
人としての純粋さとか正しさと、
やっている仕事とが完全に一致している人は
大変に幸せな部類に属するであろうと思います。
感情の起伏の大小はあっても、
みな、葛藤はあるのだと感じました。
ひとつきりの人生、スッキリ生きたいものですね!
投稿: 72nuts | 2006年9月 4日 (月) 10時09分
>72nuts 様
コメント、どうもありがとうございました。
故・杉山氏が今なお私たちの心に問いかけるもの、そしてそれをこうして語り合えることができるとは・・・。
絶版になった「CMにチャンネルをあわせた日」にも漂う気分ですが、広告という若い産業が高度成長期にキラキラと輝いてた時代の気分をいまでは懐かしく思います。それは今の自分が少なくとも新しい何かに携わってるからかもしれませんね。
投稿: チャーリー | 2006年9月 4日 (月) 14時31分