映画「ここに幸あり」
原題の「秋の庭」よりもベタに映画の内容を示す邦題である。
フランスの初老の大臣が突然罷免される。家も愛人も財産も失って、老母の元に身を寄せ、市井の人々とふれあいながら人生を謳歌する。
脱力系というか、ゆる~いというか、不思議なゆったりしたリズムで、様々な小さなエピソードが紡がれる。
飄々と生きている。
今の日本人なら、地位や名誉にしがみつく人の方が多いのでは。
この主人公は、まるで逆。苦にならないどころか、自由を謳歌してる。
ローラーブレードで走る短いシーンがいい。
女性を追回し、酒と音楽と友との語らい。
人生にとって大切なものは、結局こういうことさ・・・とグルジア出身の監督が語りかける。
(監督は、路上にペイントしてる役柄に、カメオ出演してる、らしい。)
この映画はリアリズムではないので、ファンタジーとして観ればいい。
しかしファンタジーとはいいながら、政治あり、難民問題あり、いろいろな現実が主人公を取り囲んでいる。現実世界と同じように。
けれど、この主人公の初老の男のファンダメンタルズは、自らのイノセンスにあるらしい。
子どもの頃誰もが持っていたイノセンスに揺らぎない確かさがある。
世俗の役割など借り物なのさ・・・という小さなささやきも、監督のタッチから聴こえてくる。
この映画を、現実に引き戻して論じるのは、“無粋”だろう。
ちょっとした生きるヒントを与えてくれる映画である。
愛人役の女性がブランド物を買い漁って帰宅するエピソードがある。このエピソードもまた面白い。
決して消費大国では、産み出しようがない映画である。
人は社会的価値で生きなくてもいいさ、ただ生きるだけでそれは素晴らしいものなのさ。
その声は、なかなか骨太でありながら、ささやきである。
観る人々の耳を試す映画かもしれない。
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