脱・金融大恐慌1993-2008
1993年12月に出版された「脱・金融大恐慌」を復刻して新たに新原稿を加え、注釈も加えて2008年4月に発行されたこの本には、不思議な味わいがある。
1993年の本の「おわりに」と題された終章に、「話を10年先に進めよう。」とある。
「いまは2003年である」とあって、近未来が語られている。その1993年の近未来は、2008年の今からみると、過去のことである。
復刻新版の刊行にあたり、最初に「すでに起った未来」と書かれてる。
この本の面白さは、「いまそこにある危機」は「すでに起った未来」であるという複眼的な読み物である処だ。
ちょっと難しい。
それは、1993年に書かれている文章を読んでいる自分は、その文章を1993年の過去のものとして読むと頭でわかっていても、あまりに現在に重複してるので、2008年のこととして読んでしまう処。
あんまり、こんな読書経験はできない。
それも、この著者(松藤民輔氏)の洞察が鋭く、未来を言い当てているから。
日興證券、メリルリンチ、ソロモン・ブラザーズを経て、金鉱山のオーナーになってる著者は、どこまでいっても異端なのだろう。
勝ち組、負け組が、すべて意味をなさなくなり、既成の知性の多くが全く外した現在、こういうブレのない主張を読めることが、ちょっとスリリングだ。
さまざまな知性がある。
しかし非常時に有効な知性は、得がたい。
1年後ですら予測困難なこの時代に、「羅針盤」がやはりほしいと思う。
そんな「羅針盤」の1つに、この本は有効であるかもしれない。
一言でいえば、歴史に学ぶこと。
私たちは、バブルとそれに続く金融恐慌を生き延びてきた、唯一の未来人なのだ。
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