映画「七人の侍」とプロジェクト・マネジメント
昨晩NHK BSで、再見した。
農民が野武士から村を守るために侍を雇う。ー「七人の侍」はそこから始まる。
(以下にストーリーを展開します。「七人の侍」未見の方はご注意を。)
映画の初めは農民が侍をリクルートする試み。リーダー格・勘兵衛(志村喬)が定まり、次に戦(いくさ)する侍をリクルートしてくシークエンスが見所となる。
そして人材は結集しプロジェクトは実体を持ち始めた。
七人の侍が村に入ってからは、戦のプランニングと農民の訓練に移る。ここは七人の侍と農民が様々な葛藤を経て臨戦体制へマインド・セットされていくプロセスがみれる。「旗」がつくられる。そのエピソードは印象的に使われる。離れ家三軒を捨て村を守る戦略が明かされる。
休憩を挟み、村の守りを固め、野武士の居場所に奇襲をしかけ、やがてクライマックスの戦が始まる。
ランチェスター戦略の戦(いくさ)。弱者の戦略。一騎また一騎と倒し、最後に総攻撃が始まる・・・。
その激烈な雨のシーンは2月に撮影され、黒澤は足に凍傷を負ったという。
戦で幾人も侍は命を落とした。農民も犠牲を払った。
しかし野武士に勝利する。
映画の終末、真に勝利したのは農民であると、生き残ったリーダー勘兵衛は呟く。
この卓抜なシナリオ(設計図)に、製作が長期化し、映画会社(東宝)が二度も中止を画策した。そんな舞台裏の危機を乗越え、通常の映画の三倍の製作費を費やして造られた「七人の侍」。裏側もまたプロジェクトであった。
黒澤の完璧主義の神話が強化された。
クリエイティブで勝利した。しかし経営を危機に陥れた。
賭けに勝ったが、映画が産業である時代はさらにマネジメントに力点を置く。
ここで勝利の女神は、黒澤明に微笑んだ。
その微笑は、しかし後年黒澤を、苦しめる原因にもなった。
創造とビジネス。その永遠のアンビバレンツ。
プロジェクト・マネジメントをこれ程、映画の中で描いた映画も稀であろう。
勘兵衛(志村喬)に黒澤明の無意識は投影されているようだ。
勝利。
その勝利の絶頂で、勝っても敗れたと感じる人物を黒澤の無意識は造型した。
それを映画「七人の侍」を再見し、確認した。
これからもまた何度もみることになる映画である。
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