「錦繍」 宮本輝(新潮文庫)
小説「錦繍」(きんしゅう)を初めて読んだのは、昭和57年三月に新潮社から刊行されて間もなくのことでした。
それから永い歳月が経って、文庫で再読した。
主人公の男性が三十七歳、女性は三十五歳。
ある事情で離婚したふたりの往復書簡で構成された再生の物語である。
登場人物の年齢をはるかに超えてしまって、それ相応の人生経験も積んできて、それでもなお、名作は、気高くひそかに語りかけてくるものがある。
この小説の往復書簡という形式が、対話に似た交流を書簡の形で濃密に展開することによって、自己開示と受容が深められていく。
それは過去を再び生きることであり、生きることで自ら生きる意味を探求することであり、相互理解を深めることであり、それがそのまま相互の今と、そして将来のほのかな希望を見出すことにも繋がっていく。
小説を読むということは、この宇宙を、「不思議な法則とからくりを秘めている宇宙」(P261)と思わせる宿命や業や 人間の営みの不思議さを物語ることかもしれない。
錦秋の色とりどりの紅葉、紅葉の彩なす様を織り込んで「錦繍」と名づけられたこの小説は、人生とその儚い命とが織りあわされて大河のように流れ、そしてその中で今から再生しようとする人の姿が描かれているからこそ、どこかで自分を勇気づけてくれる。
再読して良かった小説です。
その契機を与えてくれた、blog「秋の空」のとーこさん、どうもありがとう。
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コメント
どこかで自分を勇気づけてくれる。
本当にそうだったなあ、と思い返します。
私にはまだ上手に言葉にできませんが、チャーリーさんの言葉に「うんうん」と思いつつ、どこかでいつか「宇宙の不思議なからくり」のような私自身の表現ができるようになればいいなと思います。
そうなるには私にはまだまだ経験が足りません。
いつか必ず私も再読しようと思います!
投稿: とーこ | 2011年4月11日 (月) 23時16分
とーこさん
十年後に、再読して、新たな「錦繍」に再会するかもしれませんね。
とーこさんの十年前と今、そして十年後・・・。
それこそ、宇宙の不思議なからくり、かもしれないです。
今の今、「錦繍」を語り合ったこと、きっと意味があると感じています。
投稿: チャーリー | 2011年4月12日 (火) 20時38分